FIRE後に暴落が来たら資産は何年もつ?自作シミュレーターで試算してみた

思考実験の見える化として作成した「FIRE資産シミュレーター」

これまでの思考実験シリーズでは、JEPQ1489VYMJEPIといった組み合わせで、分配金やトータルリターンを軸に比較してきました。その中で下落局面での値動きにも触れてきましたが、あくまで比較項目の1つという位置づけです。

一方で、FIRE後の生活を考えるうえでは、「取り崩しながら生活している最中に暴落が来たらどうなるか」という、商品選びとは別の軸の問題があります。この部分は個別ETFの比較だけでは見えてきません。そこで、頭の中の思考実験を数字とグラフで見える化するために作ったのが、今回紹介する「FIRE資産シミュレーター」です。

ブログにはすでに埋め込み済みなので、この記事ではスライダーの意味と、特に「暴落シナリオ」「現金クッション」という2つの機能が何を表しているのかを解説していきます。

この記事でわかること

FIRE後のシーケンスリスク(取り崩し初期に暴落が来ることで資産寿命が大きく変わるリスク)を、自分の条件で確認できるツールのご紹介です。あわせて、暴落シナリオ・現金クッションという2つの機能が試算の中で何を表現しているのかを説明します。

基本設定——まずは自分の条件を入れてみる

シミュレーターの基本設定では、以下の項目を自由に設定できます。

・初期資産
・FIRE開始年齢
・年間取り崩し額
・老後開始年齢と、その時点からの取り崩し額
・想定運用利率
・年金受給開始年齢と受給額
・副収入
・シミュレーション終了年齢

ポイントは、FIRE中の生活費と老後の生活費を別々に設定できることです。多くのFIRE試算では「取り崩し額はずっと一定」という前提を置きがちですが、実際には年金受給が始まれば取り崩しペースは変わりますし、老後は生活スタイルそのものが変わることも多いはずです。この2段階設定にしておくことで、より実態に近いシミュレーションになります。

なお、ここで入力した数値はあくまで試算用の仮の値で構いません。まずは大きめにざっくり動かして、資産の減り方の「クセ」を掴むのがおすすめです。

実際のシミュレーターが以下になります。スライダーを動かすと、その場でグラフが切り替わります。以降の解説は、このツールを触りながら読み進めてもらう前提で書いています。

FIRE 資産シミュレーター

各パラメーターを自由に設定できます

基本設定
初期資産万円
FIRE開始年齢
年間取り崩し額通常時の年間支出万円
老後開始年齢
老後の年間取り崩し額老後開始年齢から適用万円
想定運用利率(年率)%
年金受給開始年齢
年金受給額(年間)万円
副収入(パート等・年間)年金受給開始まで加算万円
シミュレーション終了年齢
暴落シナリオ
暴落・回復期間中は生活費を減らす
暴落期間の年間取り崩し額任意暴落・リーマン実データの両方に適用万円
使用する暴落シナリオ
暴落率(0%=暴落なし)FIRE翌年に一括下落%
暴落後の回復年数暴落直前の水準まで戻す期間
現金クッション設定
現金クッションを別枠で確保する(暴落・回復期間中は株を売らず現金から生活費を出す)
資産推移グラフ
暴落なし・クッションなし
このシミュレーターは情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
実際の運用成果は市場環境・税制・個人の状況により異なります。投資判断はご自身の責任でお願いします。

暴落シナリオ機能——「任意設定」と「リーマン実データ」の2択

このシミュレーターの中核が、暴落シナリオ機能です。暴落シナリオは「任意設定の暴落」と「リーマン実データ」の2パターンから選べます。

任意設定では、暴落率と回復年数を自分で自由に決められます。「もし50%下落して回復に3年かかったら」といった、自分が想定したいシナリオをそのまま試せる形です。

具体的な計算の流れは次の通りです。まず1年目に、設定した暴落率で資産が一括で下落します(暴落率50%なら、資産は一気に半分になります)。そこから回復年数として設定した年数をかけて、暴落直前の水準までちょうど戻るように逆算した、一定の複利成長率が毎年適用されます。つまり「暴落率50%・回復年数5年」と設定した場合、1年目に50%下落し、2〜5年目は一定の複利成長率で回復し、暴落から数えて5年目の終わりにちょうど暴落前の水準まで戻る、という動きになります。回復年数を過ぎた6年目以降は、通常の想定運用利率に戻ります。

実際の暴落後の株価回復は年によって上下しますが、このシミュレーターでは計算を簡略化するため、回復期間中は暴落前の水準にちょうど戻るよう逆算した一定率で戻るものとして扱っています。

一方のリーマン実データは、2008年のリーマンショックを起点にしたMSCI ACWI(全世界株式)の実際のリターンをそのまま採用しています。日本在住で円で生活する前提のシミュレーターなので、数値はドルベースではなく円換算ベースのリターンを使っています。

円換算ベースにしている理由は、リーマンショック当時に円高が同時進行したためです。ドルベースで見た下落率よりも、円に換算した日本の投資家が実際に体感した目減りの方が大きく、日本在住のFIRE民にとってはこちらの方が実態に近い数字になります。なお採用しているのは配当込み・税引き前(グロス)のリターンです。具体的な年次リターンは次の通りです。

・1年目(2008年):-52.81%
・2年目(2009年):+39.06%
・3年目(2010年):-1.37%
・4年目(2011年):-11.65%
・5年目(2012年):+31.26%
・6年目(2013年):+50.05%

出典はMSCIが公開しているMSCI ACWIインデックスのファクトシート(円ベース)です。

この並びで注目してほしいのが3年目と4年目です。1年目に半分以下まで沈んだあと2年目に大きく戻していますが、3年目はわずかにマイナス、4年目はさらにマイナスと、回復の途中で2年連続の足踏みが入っています。「暴落したらあとは戻るだけ」という単純な形ではないことが、実データを見るとよくわかります。

2008年初の水準を100として累積で追うと、各年末の水準は次のようになります。

・2008年末:47.2
・2009年末:65.6
・2010年末:64.7
・2011年末:57.2
・2012年末:75.1
・2013年末:112.6

2008年初の水準に戻るのは2013年の途中、起点から約5年9か月後という計算になります。その間ずっと、資産は暴落前を下回った状態が続きます。取り崩しながら生活するFIRE民にとって、この「戻らない期間の長さ」こそが本当の重さです。

なお、MSCIのファクトシート上、MSCI ACWIの最大下落率は約64.8%(2007年7月13日から2009年3月9日まで)と記載されています。これは日々の値動きを含めたピークから底までの数字で、上の約5年9か月は2008年初を起点にした年次データでの計算なので、それぞれ起点が異なる点にはご注意ください。シミュレーターは年次ステップで計算しているため、ツール上で表示される落ち込みは1年目末の-52.81%が最も深い水準になります。

さらに「暴落・回復期間中は生活費を減らす」というトグルも用意しました。オンにすると、暴落中だけ支出を絞った場合の資産推移も比較できます。「暴落時は多少切り詰める」という現実的な行動を織り込んだときに、資産寿命がどれだけ変わるかを確認できます。

現金クッション——株を売らずに乗り切るための仕組み

暴落シナリオとセットで使ってほしいのが、現金クッション機能です。

現金クッションとして設定した金額は、株式とは別枠の現金として扱われ、想定運用利回りの計算対象からは外れます。いわば「増えも減りもしない待機資金」として扱われるということです。

暴落・回復期間中は、この現金クッションから生活費を出す設計になっています。これにより、株価が底値圏にあるタイミングで株式を売却せずに済みます。回復後は、株式の比率が相対的に高い状態から運用を再開できるため、シミュレーション上は資産寿命が延びる結果につながりやすくなります。ただし、これは暴落が実際に発生した場合の話です。暴落が起きないシナリオでは、クッション分の現金は運用利率の恩恵を受けずに待機しているだけなので、クッション額や暴落の規模・タイミング次第では、必ずしも資産寿命が延びるとは限りません。

これは「暴落時にこそ現金を厚めに持っておく意味」を、感覚論ではなく数字で確認できる機能です。現金クッションなしとありを同じ暴落シナリオで比較すると、資産が尽きるタイミングにどれだけ差が出るかが一目でわかります。

グラフの見方——4パターン同時比較で「差」を可視化する

シミュレーターのグラフは、次の4パターンを同時に表示します。

・暴落なし・現金クッションなし
・暴落なし・現金クッションあり
・暴落あり・現金クッションなし
・暴落あり・現金クッションあり

この4本の線を同時に見ることで、「暴落そのものの影響」と「現金クッションの効果」を切り分けて確認できます。暴落なしの2本の差は現金クッションを持つことそのもののコスト(機会損失)を表し、暴落ありの2本の差はクッションが効いた効果を表します。

自分の取り崩しペースだと、暴落なしなら資産は何歳まで持つのか。そこにリーマンショック級の暴落が来たら何年前倒しになるのか。現金クッションをいくら用意しておけば、その前倒しをどこまで打ち消せるのか。この一連の比較を、自分の数字で確認できるのが、このシミュレーターを作った一番の目的です。

使ってみてほしい人

すでにFIREしている人はもちろん、これからFIREを目指して資産形成中の人にも使ってほしいツールです。「暴落が来たら怖いから現金を厚めに持っておこう」という判断は、感覚ではなく数字で裏付けておくと、実際に暴落が来たときの行動がぶれにくくなります。

思考実験シリーズで扱ってきたJEPQ・1489・VYM・JEPIといった商品ごとの分配金やトータルリターンの比較も大事ですが、それとは別に、資産寿命を左右する要素として「取り崩し中に暴落が来たときにどう行動するか」という設計があると感じています。このシミュレーターは、その設計を自分の手で試せる場所として使ってもらえたら嬉しいです。

免責事項:この記事は情報提供を目的としており、特定の投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。また、シミュレーター上の現金クッションの効果は「暴落時に株式を売却せずに済む」という前提を置いた試算結果であり、将来実際に起こる暴落の規模・タイミング・回復期間を保証するものではありません。

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